中根浩&中根さや香(Elecrotnik)。おもちゃ箱をひっくり返したようなお二人の仕事場。そんなファンタジックな館を守るのは、不思議なヘアカットのワンコ(黒のプードル)。浩さん曰く「プードルと言えば変態カット」
グラフィカルなものや、ストーリー性あるMVなど、作品によって様々な手法を持ち、特にその独特の世界観は、まるでサーカスを見ているような錯覚を覚えるElecrotnik(エレクロトニック)の作品たち。そんなユニークな作品を生み出すお二人に、制作のこだわりを聞いた。
■Elecrotnik誕生のきっかけは「週刊プロレス」
―― まず、映像を作り始めたきっかけを教えて下さい。
さや香:大学では油絵をやっていて作家になりたいなって思ってたんですけど…なんで映像になってしまったんだろ?!(笑)。でも小さい頃からマイケル・ジャクソンの「スリラー」とか映像が好きで、それがずーっと続いてってことでじゃないですかね。もともとCGから入ったんですよ私。グラフィックの会社に入ったんですけど、やっぱり映像に行きたいな、って思ってCGを始めたんです。当時、映像やるなら自分で作らなきゃだめだと思ってたので。浩くんもグラフィックを長いことやってて…。
浩:映像がほかの表現より優れているとこって“時間軸”があること。それって音楽に近い。盛り込める要素が一杯あって、ものすごく高度でおもしろい表現だと思ったんですよ。一つの作品で、音付けたり、話も作れるじゃないですか。音楽好きなんで、音楽に近いものをやりたいというのもあって。
さや香:それはすごいあるよね。
浩:アニメーションもあれば実写の表現もあって、絵画を使った表現もできたり、ものすごく広い世界。そこが一生やっても飽きないだろうと思ったんですよね。やればやるだけ、やりたいこと増えていく。
―― 始めは別々にやられてて…一緒にやりはじめたきっかけは何だったんですか?
浩:僕がビデオやってる時に、さや香もアイデアとか出してくれて、一緒に作ったのがおもしろかったんですよ。で、それからちょこちょこ僕の名義でやってたんですけど、一緒にやっていこうということでELECROTNIKになりました。
さや香:やっぱ仲良くなってるのって、好きなもの、おもしろいものが同じっていうのがありますね。
浩:さや香の机の上に「週刊プロレス」が置いてあって、僕も週プロ愛読者だったんで、「この週プロ誰の」って聞いたら、彼女ので。それで仲良くなったんです。
―― 週プロですか~!
浩:僕が「この週プロ誰の?」って聞かなかったら、何も始まらなかったですね(笑)。
■「プロレスなめんなよ」レスラーから学ぶ演出
SEAMO「Fly Away」ミュージックビデオより (c)
BMG JAPAN
SEAMOが善玉レスラーのマネージャーという設定で、プロレスの試合と音楽をからめたストーリー仕立てのMV。実際のプロレスラーが登場し、プロレスマニアを唸らせる試合が繰り広げられる。
――SEAMO「Fly Away」のMVは、プロレスものでしたね。
(ビデオ見ながらの解説スタート!)
浩:このビデオ撮った後、新日の田口隆祐がJr.でチャンピオンになったんですよ。
さや香:リングに続く花道へ裏側から入場していくシーンとか、作ってて泣きそうになった!
浩:レスラーと喋りたくて。必要以上に寄って行ったりして困惑されたり(笑)。
さや香:意味なくリング内入ったりとか(笑)。
楽しかった~。
浩:これ、獣神サンダー・ライガーの黒バージョン。赤じゃないところがこだわりです!邪道も、CTUってグループにいたんだけど、CTUはこの後で解散したから…
さや香:もう見れないんだよね。
浩:CTUのメンバーとして2人でいるビデオはこれが最後! 獣神サンダー・ライガーの、雪崩式フランケンシュタイナーをこの角度から撮ったのもこのビデオしかない! あり得ない角度から、プロレスをかっこ良く映すっていうのが、このMVのテーマだったんです。
―― (笑)
浩:レスラーの方々は時間に対する感覚がするどい。試合の組み立てとか全部そうだから。
さや香:「このカット何秒ぐらいですか?」「次カットまで10秒あります」「じゃあこういうのできますよ」みたいに言ってくれるんだよね。ほんと楽しかったです。
―― SEAMOはマネージャー役なんですか?
さや香:そうそうベビーフェイスの。
浩:ここ(タイガーマスクがコーナーのロープの上から、リング外の黒い獣神サンダー・ライガーに飛ぶシーン)を撮るために、このビデオそもそも作ったの。曲名が「Fly Away」だから。その後続くのが「クロスフェースオブJADO」。
さや香:一番嬉しかったのは、ネット見てたらプロレスファンが最近の新日の試合よりもおもしろかった、って書いてくれたこと。
浩:「プロレスなんて色物に使われるビデオが多いのに、あのビデオ撮った監督のプロレス愛にリスペクト」って書いてあった。
―― お~~~!(笑)
浩:ちなみに、最後にはいってるゴング俺が叩いた。
さや香:(笑)邪道選手ってプロレスちょー好きな人で…;
(プロレス話が続くため、割愛させていただきます)
■ビデオコンテで、やりたいことをとにかく明確に!
RIZE「Live or Die」は、これまでのRIZEにはない爽快でポップな曲。気持ち良い軽快感を、グラフィックで見事に表現している
―― MV作る時は、どう組み立てていきますか?
さや香:まず曲を何回も聞いて思いついたことを話して。世界観が初めに出てくることもあるし、この音だったらこの動きがかっこよさそうだって時もあるし、色とかの時もあるし。
浩:曲のどこが強いかだよね。歌詞が強いんだったらストーリー性持ってくるし。音のブレイクの部分がかっこよかったら、タイミングをかっこ良く見せるグラフィックのアプローチとか。
Micro「4Seasons」 ダンス、衣装、セットなど様々な要素が絡み合い、摩訶不思議な世界観が完成している。カメラワークにも注目
―― Micro「4Seasons」はどのように出来たんですか?
浩:この時は商品のSAHARAを見せないといけないので、商品とこの曲とをつなげるためのストーリーを考えることから始めました。
さや香:曲的には夏っぽいから、夏のイメージ、とか水とか入れようと。
―― 衣装やセットなどは?
浩:衣装デザインの人とがっちりと方向性とか話してデザインしてもらってます。
さや香:衣装は辻中純一郎さんという方に頼みました。はじめてだったんですが彼の世界観が合ってたので絶対一緒にやりたいなと思って。
―― 振り付けは?
さや香:振り付け師の方に、「ボーギングが始まった頃ぐらいのボーギング」ってイメージを伝えて。振り付けは、「珍しいキノコ舞踏団」の伊藤千枝さんって方なんです。
―― 出演者多いですし、撮影は大変だったんじゃないですか?
浩:外のロケ2日とスタジオのロケ1日です。カット割りは全部カメラワーク付きのビデオコンテで準備します。
さや香:撮影の時までに、Vコン作っていって、現場ではそれに沿って撮っていく感じ。
浩:演者も、カメラがどういうふうに動いて、とか具体的に見せると一番わかりやすいみたい。
―― 現場のノリで変えたりとかは?
さや香:ほとんどないです。バンドとかでグルーブ感出た方がいい場合とかは、長めに撮ったりしますけど。私達は生で(現場で)動かすのが好きだから、吊りもんがひっくりかえったりハプニングが起こるわけです。そうするとすごい時間かかる。それもあって、Vコンがあると助かる。クレーンとかの特機も、次どう動くかわりやすいから準備できますよね。時間かかる中でも最小限にできる。
これがあるとベースが上がるというか…そっからの話になるから。
浩:より想像しているカメラワークに近づける事ができるので。
―― 「4seasons」ではどうですか?
浩:「4seasons」の特機の谷口さんはほんとすっごいうまい人。
さや香:例えば、クレーンで真上にひくカットあるじゃないですか。普通に真上にひくとき斜めになっちゃう。
浩:ほんとだったら上からカメラを吊らないといけないんだけど、「時間が足らないからどうしたらいい?」って聞いたら、クレーンでこうやってみようって言ってくれて、やったらできたんですよ。
さや香:何気ないカットに、かなり高度なテクニック(笑)。みんな映像好きでやってるわけだから、「かっこいいんじゃないか」って思ってくれたら、それに向かって一生懸命頑張れる。
■「絶対自分が思ってるものを作る」クオリティの管理者として
―― それは本当にいい現場ですね! 撮影は非圧縮でされてると伺いましたが?
浩:テープに取り込むということは圧縮がかかる。いろんないらないものがついて劣化していく。後で、色合わせて質感も変えたりどんどん加工して行く中で、よりきれいな元素材が欲しい。なので、カメラがテープに行く前の情報を録画しちゃうんですよ、Mac Proを現場に持って行って。(注:HDカメラから、ダイレクトにHD SDI信号でMac Proに取り込む)
さや香:グリーンバックの編集もすごく楽です。
浩:エッジがきれいに抜ける。HIFANA「hifana.com」の時から始めたんですけど、金魚のしっぽが半透明だから、あれテープ収録するときれいにぬけないんですよね。で、どうしようって考えてた時に、ライトニングの佐藤さんにこのシステムでやったらできるって聞いて。やったら抜けたんですよね。クロマキーでやる時使えるな、ってやり始めたんですけど、どうやら色の周りもいいって分かって。だからMac Pro持って行けるとこは全部それで撮影してます。
―― 機材周りとかの情報収集はどうしてますか?
浩:現場で教えてもらったりとか。「こういうのやりたいんですけど」って。編集のことはエディターさんに。カメラ周りのことはVEさんとかカメラマンに聞いたりとか。基本、聞きまくってる。
さや香:こう撮りたいんですけど、って相談すると、じゃああれ使えばいいんじゃないですか。って教えてくれる。
浩:何がないからこの表現ができないってことにしたくない。ものづくりでは、作ることが一番大事なこと。その作れない状況を排除していくためには、ある程度知識や技術が必要で、それがあると、最低俺たち2人だけでも作れる。その自信があれば、いつも余裕持って色んなことできるんです。
さや香:やりたいことをやろうとしているだけ。
浩:やりたくないって言われたときに、「いいよ自分でやるからいいよ」って言える(笑)。それは良くないんですけど。でも「絶対自分が思ってるものを作る」っていう一番大事なこと。一つのパートだけやろうとは思わない。
さや香:どのパートもおもしろいから、いろんなおもしろいものに関わらないのは、もったいない(笑)。
■コブラ笛で宇宙と対話?/独創的すぎる遊び
―― 相撲のカレンダーがあったり…ほんといろんなものにご興味があるんですね。
浩:コブラ笛を今、改造しようとしてるんですよ。コブラ笛って竹のリードなんですよ。ずーと循環呼吸みたいにして、えんえんと吹くのってけっこうハード。だから、プラスチックのリードに差替えて作ろうかと思って。
―― 一体何をたくらんでるんですか?(笑)
さや香:良く作ってるよね、笛好きで。元々サックスやってたからだと思うんだけど。中国の笛長さが違うやつうわーっと持ってたりとか、あと、「シャハナイ」、インドのチャルメラ。
浩:タブラと一緒に演奏する楽器なんだけど…
さや香:難しいんですよ。ほんと筒みたいなのに、オーボエみたいなダブルリードがざっくりささってる。
浩:インドではシャハナイ用のリードが売ってて、普通に日本でも買えるんですけどあんまり状態が良くなくて。だから、似たような楽器のリード一杯集めて、差替えてピッチがすごい似てるやつを探したら、オーボエのやつが一番近かったんですよ。オーボエのやつってちょっと長いから、70%ぐらいの長さに切っちゃうんですよ。そうすると鳴りも良くて、すごいなんちゅうか「インド人もびっくり!」のリードができるんですよ(笑)。
―― なるほど~。音楽はどういうのがお好きなんですか?
さや香:Pファンクがもうずっと大好きで、あとプログレとか。まあなんでも好きですけど。
浩:プログレっぽいジャズとか好きですね。ローランド・カークとか。
―― お二人でバンド組んだりしたことあるんですか?
さや香:ないです(笑)。
浩:個人練習とかしてる、スタジオで。バンドでとると高いんですけど、3人までだと半額ぐらいで借りれるんですよ。お互い違う曲ひきまくって帰ったりとか(笑)。
さや香:私は今ドラムを練習しているんですけど。ギターとかベースとか。昔はトランペットとかですかね。
浩:笛も吹くし、ギターとかベースとか借りれるし。マイクでもいいんです。でっかい音出したいだけ(笑)。ガンガンたたいて、それに合わせてドラム叩いて。「ガチャガチャガチャ」「は~」とか言って、それだけですんじゃうんですよ。あと、ディレイがあればなんでもおもしろいです。ダブとかのエフェクター「アナログディレイ」。エコーをはやくしたりおそくしたりして、それだけでリズム作れるから、気持ち良い。
―― その光景を見てみたいですね・・・。 最近お休みは何してるんですか?
さや香:映画見たり、普通です。
―― 最近のイチオシはなんですか?
浩:イチオシはね、昨日見たDVD。これいいっすよ。
さや香:「ショーン・オブ・ザ・デッド」!「HOT FUZZ ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!-」はまだ見てないんですよね。みたーい。(「ショーン・オブ・ザ・デッド」のエドガー・ライト監督の最新作
「HOT FUZZ ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!-」。
こちらの記事もチェック!)
浩:これ作った
ライト監督は性格がいいと思うんですよね。
さや香:そう品がいいというか。
浩:人柄が出てて、見てると幸せな気分になる。あと
「ランボー 最後の戦場」かな。今回はほのかな恋があって(笑)。
さや香:映画館で、途中から浩くんリアルランボーで(笑)。ぐるってひっくり返って、下に入って、這いずりまわって、途中からランボーごっこに変わってました。
浩:友達の背後に回って首しめたりとか…戦いでした。
さや香:あと、「
ダーティ・シェイム」も良かった。
浩:「
ヘル・ボーイ」も良かったよ
。
2人の仕事場にお邪魔してお話を伺いました。その間、仕事場の雰囲気や2人の話す独創的な内容で、軽いトリップ感を味わいました。そう、これぞElecrotnikの作る映像世界! プロレスや舞踏、相撲、笛etc―― 2人の様々な好きなもの確かに凝縮されて映像ができているのだと実感しました。今度はどんな世界にトリップさせてくれるのか…楽しみにしています!
5 つの質問 一問一答
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください
さや香:ジャッキー・チェン
浩:カール・ゴッチ
Question 2: この職に就いたきっかけは?
さや香:映像が好き
浩:なりゆき
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
さや香:バチ当たり修道院の最期(ペドロ・アルモドバル監督)
浩:2001年宇宙の旅
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
さや香:鉛筆、タブレット、音楽
浩:アイアングリッパー、バナナ、週プロ
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
さや香:映画
浩:ひまわりの芽の育ち具合を見る
■プロフィール
・Elecrotnik
中根浩と中根さや香による映像ユニット。実写構成、モーショングラフィックス、アニメなどさまざまな手法をを必然のある形でアウトプットしていくスタイルを好んでいる。
櫻田千枝子(SAKURA堂)/取材&文
CGWORLD編集部を経て現フリー。自分好みの素敵オモロ映像を日々探索。好きなものは、南の島、代々木公園、のんのんばあ、フォルティ・タワーズなど。